国際市民裁判所一号法廷 <第一回>
第一号法廷・日本「特定秘密保護法」に対する審議・裁判官:マハトマ・ガンジー、アルベール・カミユ、マザー・テレサ、J・F・ケネディ、幸徳秋水、宮沢賢治、杉原千畝、チェ・ゲバラ、マーティン・ルーサー・キング、トーベ・ヤンソン。
廷吏:これより国際市民裁判所第一号法廷を開廷致します。本日は証人尋問として安倍晋三を召喚致しております。証人は前に出て来てください。
右手を左胸に当てて宣誓を行って下さい。
真実以外の何事も話さないことを宣誓して下さい。仮に虚偽の証言をされた場合は法廷侮辱罪として告発されます。
安倍:私は本法廷において真実以外のことを話さない事を誓約致します。
裁判長・マハトマ・ガンジー:ではこれより第一号議案、日本にて2013年12月5日付で成立した「特定秘密保護法」についての審議を開始致します。これは世界市民9885名からの告訴状に基づいて起訴された案件であり、市民の痛烈な願いが込められていると当法廷が他の8名の判事との協議の結果受理したものです。証人は証人席へ着席して下さい。
では検察官、証人尋問をどうぞ。
検察官:ガンジー裁判長有難うございます。
まず証人にお聴きします。貴方は当法廷において審議されようとしている「特定秘密保護法案」を日本の国会に上程し成案した与党自民党の党首をされていますが、何故多くの日本国民や他の国ぐにの人々から当法廷に提訴されたかわかりますか?
安倍:いいえ、全く分かりません。私たち自民党は、法に基づいた手続きを踏まえ、法に則ってこの法律を成案させたものであり、違法性は全くありません。
検察官:お伺いしますが、この特定秘密保護法の目的・あるいは現在の日本に何故この様な法律が必要だと思われたのかをお聞かせ下さい。
安倍証人:今、世界は混沌としています。日本を取り巻く国際環境も非常に差し迫った状況にあり、安閑として平和を享受出来る状態ではありません。尖閣諸島や竹島を含む近隣諸国との軋轢だけでなく、中東におけるテロの脅威が何時日本に迫って来るやも知れません。日本国民を守るのが総理大臣としての私に与えられた使命であり、与えられた役割を果たす為に日夜努力するのが私の務めだと思っています。その為に必要な国際間の情報の共有は喫緊の課題であり、もたらされる情報を特定秘密として保護し、外部からのアクセスに対して防御する為には、この「特定秘密保護法」は欠かす事の出来ない法律です。
検察官:今、言われた事は、この法案提出の際によく聴かされたことですが、これは貴方が第一次安倍内閣でも喧伝されていました。そこで当法廷では、何故昨年になってこの法案が緊急課題として取り上げられたのか、その真意が何処にあるのかを明確にさせて行く必要があります。
そこでお尋ねいたします。貴方は「正義と平和」のどちらが大事だと考えておられますか?施政者の立場として、又一人の人間としての価値観をも踏まえた上でお答え下さい。
安倍証人:そのような哲学的なご質問にお答えする用意がありませんでしたので、その質問は後程別の機会にお答えさせて頂きます。
検察官:ここは法廷であって、国会審議の場ではありません。後程という弁明は許されておりません。
現在貴方が心の中で思われていることを正直にお答え下さい。計算づくの回答は必要がありません。
安倍側弁護人:異議あり。証人は証言の自由も保障されていて証言に対して拒否することも認められております。又、検察官の質問は、本件の審議とは遠く逸脱したものであり、質問の目的すら不明瞭なものです。よって今の「正義と平和」という質問は撤回して戴くよう求めます。
ガンジー裁判長:当法廷は今の弁護人の主張は却下します。審議案件の性質に鑑みてそれなりの哲学的な質問も必要だと思います。しかし検察官は今の質問に対しての主旨を説明して下さい。又あまり広範囲な質問は避けるようにして下さい。
検察官:裁判長ありがとうございます。私が質問致しました主旨は、現代社会において「正義と平和」という間には数々のジレンマが存在し、市民社会の中で様々な問題を発生させ、市民は多くの矛盾に満ちた社会の中で暮らすことを余儀なくされています。そしてその原因の発端はやはり各国の政治姿勢にあると言えるからです。安倍証人は現在日本の総理大臣であり、又最大与党を結束する自民党の党首でもあります。彼の価値観や「正義と平和」に関する考え方は、日本国民の意識や社会生活そのものを左右するところです。そして何故「特定秘密保護法」が緊急課題として上程され、多くの市民の反対の声を無視して、国会の会期末に強引に、性急に成案させたかを知る上では欠かせない質問だと考えたからです。
ガンジー裁判長:(左席のマーティン・ルーサー・キング裁判官と右席のアルベール・カミユ裁判官に確認をして)。許可します。証人は検察官の質問に答えて下さい。
安倍証人:お答えします。私は「正義か平和か」と問われれば、正義を重んじます。正義がなければこの世は成り立ちません。正義が必要だからこそこ法というものが存在し、この様な司法の場があり、監視し規制する為の警察の存在が不可欠とされ、人々が安心して暮らして行くことができます。もし正義がなければこの世は自分勝手な欲望が満ち溢れ、悪行が横行し、人々は安心して暮らす事はとても出来ない世の中になります。
検察官:安倍証人の言われた事はその通りだと私も思います。確かに正義がなければ社会機構そのものが成り立ちません。しかしその正義とはどの正義をもって正義と言えるのでしょうか?過去も現在も数多くの正義と言われるものがあります。日本には「勝てば官軍」という言葉がありました。勝者のみが正義とされた時代でした。そして現在の国際社会の中でも様々な正義があります。アメリカを中心とした先進諸国の正義、ロシアや中国におけるような半独裁的な正義、北朝鮮やシリアに見る様な独裁者専用の正義、又、ムスリム国家に見られる宗教的正義とアルカイダ達が主張する神の正義もあります。よく見れば、正義というものの普遍的な形はないとも言えます。貴方の言われる正義とは一体何処にある正義なのでしょうか?
安倍証人:私が言う正義とは、欧米先進国の正義です。民主主義に根差し、平等の原理を根幹とする正義です。
検察官:なるほどその処はよく判ります。それは政治だけでなく経済も文化も含めた総合的な意味として理解しても宜しいでしょうか?
安倍証人:その通りです。
検察官:ということは、今の欧米先進国における正義とされるものが、これからの世界の国際正義として拡大されるべきだと考えておられるのでしょうか?
安倍証人:そう考えて戴いて結構です。
検察官:世界が共有している絶対的な正義の一つとして「命を守る」という事柄が挙げられると思いますが、貴方もそれには同意されますか?
安倍証人:勿論です。
検察官:この命を最上のものと考える正義が存在しなければならないにも拘らず、世界には人間の命の存在さえ無視してかかる正義というものが存在します。その代表的なものが市場原理を旨とした欧米先進国の経済のグローバル化です。日本を含めた欧米諸国の経済活動は広範囲に拡大され、その経済規模を更に拡大し堅固なものとするために、世界銀行やIMFが中心となってマネーサプライをコントロールし、途上国や最貧国の経済発展を阻害しています。その結果一日1,25ドルで生活する人々は12億人にも及び、年間1500万人もの人々が飢餓や医療不備によって餓死しています。この様な事実はご存じでしたか?
安倍証人:はい、存じております。しかし、その数が私たちの努力によってこの10年で相当減少してきている筈だと思います。
検察官:確かに減少はしていますが、これで仕方がない、今のところはこれでいいのだとでもお考えでしょうか?年間1500万人ということは毎日41000人の人達が、食べる物や単純な医療がないために死んでいるという事実です。これは彼らの住む国だけに責任があり、他国には関係のないことだとお考えでしょうか?経済成長のためにCO2を撒き散らし、地球温暖化による砂漠化によって彼らが生きて来た生態系を破壊され、土地を離れる事を余儀なくされ、今は座して死を待つよりほかに手立てが無くなってしまった人々も数多くいます。これが欧米の正義の結果だと思いになりませんか?
今回の特定秘密保護法とは、この様な欧米型の正義に追随するための、あるいは彼らから必要だと迫られたことに対する結果ではないのですか?
安倍証人:私は決してそのようには思いません。南北問題は先進国がもたらしたものではなく、経済途上国や最貧国といわれる国々にも責任があると考えます。又、欧米各国から必要な法案だからと迫られたこともありません。これは私一人が決断したことでは無く、自民党と公明党の間で何度も議論され、維新の会やみんなの党にも賛同を得て結論を得たものです。正義の議論に則った結論なのです。
検察官:これからの審議を進める上での日本の対外援助・ODA・の背景を知って戴くために、OECD開発援助委員会(DAC)が発表した政府開発援助実績の国民1人当たりの負担額(2012年)の集計表を証拠1として提出致します。これは安倍証人が発言したように、日本の正義の元とする欧米諸国の実質的な考えを表す資料であり、特定秘密保護法の主たる要因とされる情報管理と非常に緊密な関係にあり、今後の審議にとっては必要な資料であります。
資料(1)
検察官:日本の国民一人あたりのODA支出額の低さがこれで一目瞭然です。日本政府の国際的な支援に対する意識の低さ、ひいては国民自身の意識の低さが見て取れます。上位7か国の内、4か国が北欧でそれにプラスしてスイスとルクセンブルグ、オーストラリアが入っています。米英仏独を最重要視する日本政府の姿が見て取れます。そして今回の特定秘密保護法の言い訳として例にとるのは米国と英国です。すでに仏独においては特定秘密保護法のような国民の目に網をかけるような法律を、見直して行きつつあります。
検察官:私共がツワネ原則を元として作成した「国家情報管理国際原則法」の前文には次のような言葉があります。「過去の人類が記してきた歴史を振り返る時、実際には国家の安全を守る行為について、国民が十分に知らされている場合に限って、それは有効であたという事実を我々は知らなければならない」とあります。
つまり情報を秘匿される必要は全くないという史実をここで述べています。独裁者や皇帝を中心とした貴族だけで国家を支配していた時代は市民には必要な情報は殆ど知らされませんでした。又20世紀に入って特秘とされてきた情報は、殆どが時の政府の都合の悪い事象を隠匿しているだけであったと言外に述べています。国民にすべての情報が共有されている国家であれば、決して間違った方向へは向かないと言っているのです。
民主主義の本質はここにあると考えます。安倍証人はこの史実をどのように考えていますか?
安倍証人:私はその様には考えません。特に今日のように情報がインターネットによって過多となり、様々な情報が入り乱れる状況下では、私たち政治家が正しい情報を選択して行かなければなりません。不必要な情報が国内を飛び交い、根拠のない情報が国民の間に広がり、危機感が高まるような仕儀は避ける必要があります。又、国家の安全が脅かされそうな時、その情報を特秘として必要なセクションだけがそれを共有して、真の危機に対処しなければ、国の安全を保つことは困難でしょう。
検察官:民主主義の原点としての「国家を守る」という概念を示されました。これは同時に他国にも同じ権利があり、国益追求のために政治的・経済的な対外侵略やをしないということにもなります。自衛を成し遂げようとするならば、他国の安定化も欠かせない要件であり、その基本条件として、貧困に苦しむ国々に対して社会インフラや食料支援などの国際支援に対しても負担をして行くのが義務であることを知っておかなければなりません。自国の軍備や情報管理に目の色を変えるのではなく、最優先として必要なことは、危機に至らない戦略がまず必要であり、テロの大元となっている貧困の不条理な元凶にこそ、まずコミットメントしなければならないのです。上記の表を見る限り、日本政府はその責任を率先して果たしているとはとても言えません。なんとなく先進諸国が行っているから日本も付き合っておこう、という程度でしか考えてはいないというのが、ありありと見えます。安倍証人はこのような配慮を行ってこられましたか?
安倍証人:おこなって来たつもりです。時間の制約があり自由に動くことは出来ませんが、機会があるたびに中東やアフリカ、インドやトルコへも訪問してきました。それぞれの国に対して出来る範囲での経済的支援や、政府のできない処は民間にお願いするなどして、積極的に外交をこなしてきております。
検察官:それは目的が違っていたのではないですか?訪問された国々にあるものを売り込むことが本当の目的だったように聞いていますが。それはこの場では追求しませんが、後刻第二法廷で脱原発社会の実現に関する法廷が開かれますので、そこで今言われたことは明らかにさせて頂きたいと思います。
さて、今日の法廷の制限時間も迫ってきましたので、最後に特定秘密保護法に対する監視機構の設立についてお聞きします。安倍証人は監視機構の設立を考えておられるのか、又視野に入っているとすればどの様なメンバーでの監視機構にされるおつもりかを聞かせて下さい。
安倍証人:各党首からも要請されていることであり、監視機構の設立は私も必要だと感じております。メンバーは広い分野からの有識者と国会議員を含めたものにする必要があるのではないかと考えております。情報分野にお詳しい文人や技術者、広範な知識をお持ちの研究者の方々が必要ではないかと思っています。
検察官:一般市民の中からの人選はお考えですか?
安倍証人:現在は政府として責任ある態度を示す必要があり、在野の方々からの人選は視野には入っておりません。
検察官:分かりました。安倍証人本日はありがとうございました。これで今日の審問は終わらせて頂きます。
裁判長ならびに裁判官の皆様、安倍証人の5人の弁護人の皆様、貴重なお時間を下さいましたことに、お礼申し上げます。本日はありがとうございました。
ガンジー裁判長:今日の審問はこれで終了致します。次回の審問は10日後に当法廷101にて執り行います。
尚、各裁判官から直接質問したいという事項がありますので、その質問内容等は事前に担当検察官・弁護士各位に書面にてお知らせ致します。
廷吏:これにて「日本国ー特定秘密保護法に関する審議」の第一回法廷を終了致します。
2014年3月30日